信州クルマ旅 part. 2 〜東山魁夷館と美味しいもの〜

愛車スズキSwift号で新緑の信州を巡った旅(2022年5月16日〜19日)から1ヶ月半。
ミュージアムショップで買い求めたポストカードを眺めながら、旅の余韻を楽しんでいます。
Part.1では出発から帰宅までの道のり編(神戸〜安曇野〜上高地〜松本〜神戸)、今回のPart.2は長野県立美術館に併設された「東山魁夷館」訪問に焦点を絞りました。執筆担当はマスターです、どうぞお付き合いください。

時計回りに
《 白馬亭 》1969 ドイツ・オーストリアの旅
《 水辺の朝 》1972 ドイツ北部、オイティーン
《 緑響く 》1972 長野県、蓼科高原
目次

長野市へ

今回の旅には、どうしても訪ねたい目的地が三つあった。上高地、東山魁夷館、そして松本である。このうち上高地はできれば晴れた日に行きたい。自然の景観は光の良し悪しで印象がガラッと変わるからで、川の流れも山の姿も森の木立も、晴れた日の輝きはやはり別格だ。いっぽう東山魁夷館や松本は少々天気が悪くても感銘が大きく変わることはない。

二日目の朝はうすぐもり。翌日は快晴という予報が出ている。お天気の神様に感謝しつつ、長野の東山魁夷館を目指しておもむろに出発する。道のりは約70キロ。1時間半くらいで着くだろうか。
美ヶ原(うつくしがはら)の方向にしばらく走り、安曇野インターから長野自動車道に入る。ここから長野までは筑摩山地を越えて行く。山地に道を作るには二通りの方法がある。川に沿って作るか、山に穴を開けるか。高速道路には後者、つまりトンネルが多用される。大工事になるけれど、運送効率がよく、天候の影響も受けにくい…そんな説明をしていたら助手席から寝息が聞こえてきた。やむを得ず切りのいいところまで説明を続け、あとはおとなしく運転に集中する。

トンネルをいくつも抜け、アップダウンのきつい高速を抜きつ抜かれつ走るうちに、突然、右方向の視界が遠くまで開けた。善光寺平だ。長野の街も見える。ちょうどこのあたりにJRの姨捨(おばすて)という駅があり、そこからの車窓風景は絶景として有名なのだ。
運転席の興奮が伝わったのか助手席から「ん、今どこ?」と質問があった。「今は姨捨。善光寺平が見えてる。すごい景色だわ」と回答すると「おばすて、おばすて…」とつぶやきながら戻って行った。絶景より大切なものがこの世にはある。

城山公園ではヤマツツジが見頃

高速を降りて長野市に入ると渋滞が待っていた。善光寺御開帳という祭事にあたっているからだろう。なかなか進まないが、地名やお店の看板、他のクルマや通行人を見ているだけで面白く、旅の喜びを感じる。助手席では写真を撮ったり、白い花をつけた樹木が何なのか調べたりしている。出発から2時間かかって城山公園に到着。目的の東山魁夷館はこの公園の一角にある。

城山公園には野外彫刻がたくさん
こちらは 三沢厚彦作「ANIMAL2008」

クルマを降りて公園のなかを少し歩いただけで、この土地の持つ豊かな空気に全身が満たされるのを感じる。山に寄り添うように善光寺が建ち、かすかなざわめきと鐘の音が聞こえてくる。公園内に置かれたライオンの彫刻を観察しながら歩くうちに、長野県立美術館の全容が目の前に広がる。その建物の美しいこと。水平方向にのびやかに広がりながら、山と空を人工的な直線でキリっと引き締めている。善光寺を見渡すテラスにはベンチが並び、人々が思い思いに景色を眺めたり食事をしたり写真を撮ったりしている。

いよいよ東山魁夷館の中へ

右の建物が東山魁夷館(谷口吉生設計、1990年)
左の建物が長野県立美術館(宮崎浩設計、2019年)
水庭をはさみ、ガラス張りの廊下でつながっている
奥に善光寺が見える

建物に入ると眺めの良さそうなカフェがある。何はともあれカフェで休憩することは旅人にとって重要である。窓辺のカウンター席に座り、善光寺を眺めながらコーヒーとタルトをいただき、コンディションが整ったところでいよいよ東山魁夷館に入る。東山魁夷館は県立美術館に併設されていて、ガラス張りの渡り廊下でつながっている。

Shinano Art Cafe
プラスチック蓋を使用しない
エコデザインのペーパーカップ

東山魁夷の作品を知ったのはいつだったか。私が高校生のとき、東山魁夷の画集やエッセイが新潮文庫から出ていて、少しずつ買い揃えていた。北欧の風景を描いた『森と湖と』そして『ドイツ・オーストリア』が大好きだった。ページを切り抜いてカセットテープのジャケットにしていた記憶がある。それからずいぶん時間が経ったが、折に触れて画集を開くたびに好きな絵が増えたし、好きな絵は何度見ても飽きないものだと知った。本のあるカフェホコトの本棚にも東山魁夷展の図録を並べた。やがて東山魁夷館の存在を知り、時間ができたらぜひ長野へ行って、落ち着いた環境でその絵の世界に身を浸したいと思っていたのだった。
マネージャーも東山魁夷には愛着を持っていた。詳しくは本人が語るかも知れないし語らないかも知れない。私たちは特に美術に詳しいわけではなく熱心に展覧会に通う習慣もないが、東山魁夷が大好きだという点では一致したのだった。

この東山魁夷館には、生前長野県に寄贈されたものを中心に970点の作品が所蔵されていて、2ヶ月おきに入れ替えながら展示されているようだ。今回の展示作品は57点。嬉しいことに代表作の一つ《緑響く》も含まれていた。画集などで見慣れた作品であっても、念入りに額装され展示された本物の前に立つことは全く特別な体験だということを改めて思う。磁石のN極とS極が出会うようにある絵の前に引き寄せられて足が止まり、視界がぶるぶる震えることさえある。長距離ドライブの疲れが目に来たんだろう、などと考えてはいけない。

ポストカードの右が《緑響く》
詳しくはこちら↓
https://www.higashiyama-kaii.or.jp/%E7%B7%91%E9%9F%BF%E3%81%8F.html

全体を淀みないペースで見てから、特に心に響いた作品に戻ってじっくり味わう。次に生涯編の展示や映像を興味深く見る。最後にもう一度いくつかの作品に戻って別れを告げ、深く満足して展示室を出た。お土産のポストカードや書籍を買って外に出ると、3時間が経っていた。

チケット、パンフレットと
今回購入した図録や書籍
展示室を出ると中庭と池が広がる
ベンチに座り余韻を味わう

長野と言えば善光寺と昔から決まっている。今回も時間があれば参拝しようと思っていたが、私たちの精神はもうすっかり満ち足りていて、いっぽうおなかは満ち足りていない。したがって今の私たちに必要なのは参拝ではなく間食である。蕎麦が頭に浮かんだが、蕎麦屋はこの時間には閉まっているところが多く、開いているお店はあまりに混んでいるか、心配なほど空いているかのどちらかだ。そこで蕎麦にこだわらず、美味しそうなおやきを買ってクルマで食べることにする。買い食いは大抵楽しいものだが、クルマ旅での買い食いはまた格別なのである。

野沢菜が入ったおやきと
御開帳特別デザインの七味

さて安曇野への帰り道は、高速道路ではなく、国道を走ることにする。来るときはトンネルで直線的に山を抜けたが、帰るときは川に沿い、わずかな平地を縫うように、道を作った先人の苦労を想像しながら走りたいと考えた。国道19号線は犀川(さいがわ)に沿って筑摩山地に分け入っていく。午後の光が山のグリーンと川のブルーを輝かせたと思うと、影に入り、夕方のように暗くなる。助手席では景色の目まぐるしい変化に驚いたり写真を撮ったり忙しそうだ。運転席では連続するカーブをクリアするため両手両足総動員である。この道を選んでよかったと思いつつ、さすがに疲れを感じ始めた頃、クルマは安曇野に着こうとしていた。通りがかりの公園で少し歩いて身体をほぐし、広い空と川と山を眺めて深呼吸すると、晩ごはんを求めてもう一度クルマに乗り込んだ。[ 以上、マスター記 ]

(参考までに)
▪️東山魁夷館について https://nagano.art.museum/higashiyama_kaii_gallery

美味しいものいろいろ

今回の旅では、美味しいものにもたくさん出会いました。


上高地散策のランチとお土産用に、沢山のパンをテイクアウトした安曇野のベーカリー「サン・トノーレ」。梓川を眺めながら食べたあんパンやベーコンエピは、忘れられない旅の思い出に。
河童橋近くの「上高地ルミエスタホテル」1階カフェレストランのテラスでは、梓川を眺めながらのコーヒータイム(何かにつけてお茶時間を楽しむのはカフェ愛好家の証?)。

「ラ・リヴィエール」のテラス席
ブレンドコーヒーとオリジナルケーキ
モンブランが本当に美味しかった
「木曽屋」豆腐田楽定食
民芸家具に囲まれた落ち着いた店内


松本では民芸家具に囲まれた「木曽屋」にて、豆腐田楽の定食とドジョウ柳川風煮込みを堪能。
翌朝はホテル花月のレトロな喫茶室「八十六温館」で、野菜たっぷりの朝食プレート&トーストをホットコーヒーと共に。

松本・ホテル花月の
レトロなステンドランプ

そして旅の終わりにはやはり、信州そばをいただきたい。
松本の中町通りにある「野麦」に開店時間少し前から並び、ざるそば2人前を注文。こちらは長野県辰野町の地粉を使った石臼挽きの細切り九一そば。辛口のつゆにつけてつるりとおいしくいただき、蕎麦湯で〆。大満足、ごちそうさまでした。

「野麦」ざるそば一人前
旅のしめくくりにふさわしい一品


旅の全行程は「信州クルマ旅Part.1」をご覧ください。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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