ホコト随想記(4)アーカイブ

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~私の好きな場所 ブックカフェ その4

久しぶりの星空を見上げながらこんばんは。ホコトのマスター松野です。
メールマガジン「ホコト随想記」第4回をお届けします。

今回は、「本のあるカフェ ホコト」のオープンに向けてのメニュー作りについてお話ししようと思います。
1回では終わらないかも知れません。

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前回は、ブックカフェにもいろんなタイプがあるという説明から、タイプごとに特に印象に残っているお店を紹介しました。

その一つ目に図書館タイプというものを挙げました。カフェのなかに本棚があって、自由に本を取り出して読めるタイプです。図書館と言えば私の前の仕事場です。本に囲まれて働きたかった私にはありがたい仕事場でした。今も図書館に足を踏み入れると静かにワクワクします。

やがて故郷・関西に帰ることになり、次のステージではこれまでの経験の集大成になるような仕事をやりたいと考えたとき、すぐ頭に浮かんだのがブックカフェでした。それは何より神楽坂のキイトス茶房や札幌のワールドブックカフェによって、ブックカフェ独特の優雅さ、豊かさに魅了されていたからです。美味しいものを飲んだり食べたりしながら本の世界に遊ぶのは何と楽しいことだろう。自分でもそんな場を作り、好みを同じくする人たちに喜んでもらいたいと思いました。

私はカフェで働いた経験はなかったのですが、素晴らしく良心的なカレー屋(随想記1でも触れたBOKUさん)に通い続けたおかげで、少なくとも美味しいもののイメージは身体のなかにできていました。コーヒーは学生の頃からハンドドリップで淹れていたので、自己流だけど一応ベテランと言えるのではないかと思っていました。ブックカフェのキモとなる本棚作りについては、図書館スタッフとして18年間、現在と未来の利用者のために本を選んできた経験が生きるだろうと楽観していました。

店づくりはhanaマネージャーと二人三脚で進めることになりました。マネージャーはカフェというものを自分を取り戻す場所として大切にしていました。また、紅茶には英国贔屓らしいこだわりを、トーストに至っては「私の体は小麦粉でできている」と言い切るなど常人の理解を超えた愛情を持っていました。それぞれの経験や好きなものを持ち寄って自分たちらしいブックカフェを作ろうと、方向が定まりました。こういう事案は勢いが大事です。

それからはあちこちのお店に足を運んだり、日本ブックカフェ協会の開業セミナーに参加したりしてイメージを膨らませながら、メニュー作りへの試行錯誤が始まりました。いくらコーヒーや紅茶に長年親しんできたと言ってもそれだけでは不十分だと思い、一通り勉強することにしました。ある程度の年齢に達してから自分の意思で勉強をするのはなかなか楽しいものですが、それが直接仕事につながると思うと緊張感もありました。

コーヒーについては、地元ということもあって、おもにUCCのコーヒーアカデミーで勉強しました。ベーシックコースで基礎的な知識やスキルを一通り学んだら、あとはニーズに応じて上級編のプロフェッショナルコースや、テーマを深掘りするスペシャリストコースを受講できます。豆の鮮度、挽き方、抽出のしかたでコーヒーってこんなに変わるのか!と驚くことしきりでした。ラテアートにも挑戦しました。最初のハートはうまくできたのですが、あら不思議、回を重ねるうちにハートがタマネギになりカブになり、とうとう丸になってしまいました。禅画のようなカプチーノ。それ以来ラテアートは諦めました。

コーヒー豆は大阪府箕面市の北摂焙煎所さんに卸してもらえることになりました。箕面は私の地元であり、日頃から北摂焙煎所さんのコーヒーが大好きだったので相談しに行ったところ、快く受けてくれたのです。こちらの豆はスペシャルティという上級グレードのものですが、やや深めの焙煎で、甘味とコクをたっぷり引き出すところに特徴があると思います。オリジナルブレンドも作ってもらえることになり、「本を読みながらゆっくり楽しめるよう、冷めても美味しく飲めるブレンドを」とオーダーしたところ、まさにそのようなものを作っていただきました。

紅茶については、もともと詳しかったマネージャーが改めて日本紅茶協会のセミナーに学び、ティーアドバイザーの資格を取得しました。私はUCCのアカデミーで1日紅茶を飲みくらべるセミナーに参加し、おなかがガブガブになりましたが、紅茶の世界がいきなり身近になった気がしたことを覚えています。

一般には紅茶というと華やかな香りのダージリンや元祖フレーバーティのアールグレイが人気ですが、マネージャーは英国紅茶に傾倒していることもあり、紅茶は断然コクのあるアッサム派でした。そしてずっと愛飲していた神戸紅茶さんの茶葉を使うことに迷いがありませんでした。

飲み物のメニューには、コーヒーと紅茶を不動のレギュラーに据えた上で、それぞれメンバーに加えたいものがありました。私はビールとワイン。休みの日に昼間からカフェでビールを飲むのは至上の悦びであると主張しました。ワインは、京都のあるブックカフェを訪ねたとき、常連らしい若い女性が「さも当然」という口調で白ワインをオーダーしたのが印象的だったからという理由でしたが、こちらはボツになりました。いっぽうマネージャーが主張したのは、カフェインレスの飲み物が必要だということです。健康上その他の理由でカフェインを摂らない人もいるし、控えたい時もある。そういう人にもやさしいメニューにしたいということで、私も同じ意見でした。

こんな具合に、試行錯誤や議論を重ねた結果、2018年5月のオープン当初のドリンクメニューは次のようにまとまったのでした。

▪️ホットコーヒー(北摂焙煎所によるオリジナルブレンド。まろやかで甘みがあり、冷めてもやさしい味わい)
▪️ホットコーヒー フレンチプレス(少し粉が混じりますが、豆のもつ風味を堪能できます。たっぷり2杯分)
▪️アイスコーヒー(北摂焙煎所のアイス用ブレンドを使用) 
▪️カフェオレ
▪️アイスカフェオレ 
▪️ポットの紅茶(神戸紅茶「御影ブレンド」を使用。ダージリンの香りとアッサムのコク) 
▪️アイスティ(神戸紅茶のオレンジアールグレイを使用。柑橘系のさわやかな香り)
▪️ハーブティ(ローズヒップ、カモミールなど、お肌にやさしいブレンド)
▪️ターメリックラテ(別名「黄金のラテ」。ほんのり甘く、体にやさしいスパイスドリンク) 
▪️りんごジュース(国産果汁100%)
▪️ぶどうジュース(国産果汁100%)
▪️ビール バス・ペールエール(独特の甘味とコク、フルーティな香りが特徴の琥珀色のビール) 
▪️ビール ギネス・エクストラスタウト(香ばしさ、ほどよい苦味、スッキリした後味が特徴の黒ビール) 

… 今見ると、ビールが2種類もあることや、当然スタメン入りしていると思われたホコトのミルクティがないことなど、ちょっと違和感がありますが、アイデアを出しては削り、出しては削りながら、メニューを作っていた記憶が蘇ります。

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今回もおつきあいいただきありがとうございました。メニュー作りの話、やはり1回では収まりませんでした。
次回も「本のあるカフェ ホコト」のメニューにまつわるエピソードを、今度はフードメニューにスポットを当ててお話ししたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

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今回も1曲添えてお開きにしましょう。
スウェーデンの作曲家、サンドストレムによる、
トロンボーンとピアノのための小品です。

ヤン・サンドストレム「ロッタに捧ぐ歌」

この曲は、大阪フィルハーモニー交響楽団のトロンボーン・トップ奏者の福田えりみさんがNHKFMの番組に出演されたとき、いちばん最後に演奏された曲で、それ以来すっかり愛聴曲となりました。
シンプルで、やさしく、万感の想いのこもった音楽。
作曲家が亡き妻ロッタのために書いた曲だそうです。
ホコトの夜の厨房で、ケーキを仕込みながら繰り返し聴いた1曲です。
よかったら聴いてみてください。

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トロンボーン:Domingo Pagliuca(ドミンゴ・パリュウカ)
ピアノ:Paulina Leisring

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2022年6月17日 メルマガ配信



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