〜私の好きな場所 ブックカフェ その1
こんにちは。マスターこと松野です。
メールマガジン「ホコト随想記」の始まりです。
このメルマガは、「本のあるカフェ ホコト」ではもっぱら厨房に引っ込んでいた私がここではお客さまとテーブルを囲んでのんびりおしゃべりする、というイメージでお送りします。お時間のあるときに、お好きなドリンク片手にくつろいで読んでくださればうれしいです。
「本のあるカフェ ホコト」がクローズしたのは1月末。寒い寒い頃でした。朝、店に出てきたら何はともあれストーブに火を入れるのですが、店全体があたたまるには1時間以上かかる、そんな季節でした。お店の作り自体それほどガッチリしたものではなく、隙間風も多かったので、木枯らしの吹く日など窓側の席は寒かったのではないでしょうか。
それからひと月かけて店の片付けを終わらせ、部屋のカギをお返ししたら、ホッとして頭や顔がゆるみ、全身の力が抜けました。それが3月初旬。さらに半月が経ち、街のあちこちにミモザや桜が咲く今になって、「本のあるカフェ ホコト」は終わったんだという実感がようやく湧いてきました。
「本のあるカフェ ホコト」は私たちの作りたかったブックカフェの姿を全てとは言えないまでもある程度カタチにした店でした。
どうしてこういうお店(ブックカフェ)をやろうと思ったのですか?
そんな質問を何度も受け、そのたびに絞り出すように答えてきましたが、突き詰めれば「ブックカフェが大好きだから」というシンプルな一言に尽きるのかも知れません。そこで今回は私の大好きな場所であるブックカフェについて、思いつくままに語ってみようと思います。
ブックカフェという言葉を知ったのは、はっきりいつとは覚えていませんが、公共図書館で働いている頃のことでした。書架にあった『ブックカフェものがたり』(幻戯書房、2005年)という一冊の本が気になり、読んでみたのがきっかけでした。そのなかで店主数名がああだこうだと意見を交わしたのち「それにしても儲からないね」「でも面白いね」という結論だけは一致していたのが妙に心に残ったのでした。
当時、私には行きつけのカレー屋がありました。旭川のBOKUというその店は抜群に美味いカレーやスウィーツ、自家焙煎コーヒーが売りでした。時流に媚びず、広告もせず、自分たちの良いと思うものしか出さない頑固な店でもありました。店内の本棚は小ぶりだけど面白い本が並んでいて、常連客は当たり前のように一冊選んで読みふける。マスターの手が空くとページから目を上げて話に花を咲かせる。読むこと食べること話すことが自然に同居していて、私はそこで過ごすたびに心と体に栄養が行き渡るのを感じました。ここでは本棚は主役ではないにせよ、場を引き締める名脇役という存在だったと思います。
ブックカフェという存在を意識してからは、たまに有名店に遠征することが楽しみになりました。そのなかで特に感銘を受けたのが、札幌のワールドブックカフェ、そして東京のキイトス茶房でした。
ワールドブックカフェは街のまん中の古いビルの上階にありました。エレベーターから店に滑り込むと迎えてくれたのは巨大な本棚!そのボリュームとバラエティの豊かさにまず驚いたことを覚えています。店内は奥行きが深く広々として、いくつか小さな本棚もあり、それぞれがよく手入れされた面白い棚になっていました。店全体に大らかな活気があって、開放感と知的興奮を同時に味わえる場所だという印象を持って帰りました。その後も何度か行きましたが印象は変わりません。
キイトス茶房はちょっと対照的に、文学青年がそのまま年齢を重ねたような店主の書斎に招かれたような親密感とほどよい緊張感が最初の印象でした。美味しいカレーをいただき、コーヒーを飲みながら過ごすうちに緊張がほぐれ、店主の飾らない優しさや思いやりがお店のあちこちに見えてきました。本棚は雑然としているけれど長く読み込まれた本たちの醸し出す渋い光沢が感じられました。無造作に積まれた便箋や絵葉書は、お客さんが故郷にたよりを書けるようにと置かれたもの。東京という土地柄でしょうね。文学や映画に関する催しも多く、ここの常連になればいろんな知的刺激を浴びることができるだろうな、と夢想せずにはいられませんでした。
これらのお店に足を運ぶうちに、ブックカフェというもののイメージが自分なりに固まってくるのを感じました。
ブックカフェとは「生きた本棚」が主役として大切に扱われているカフェのことを言うんだなと。
本を選び、組み合わせ、日々手入れする人。それらを眺め、手にとり、読んで楽しむ人。両方がいて初めて「生きた本棚」と言えるものが成り立つんだと思います。イメージとしては庭や花壇に通じるものがあると思うのですが、どうでしょう。
加えて、一冊の本には一つの世界が閉じ込められています。ポンと置いてあるだけなら紙のかたまりに過ぎませんが、集中力と想像力をもってページを開けば、そこには誰かの人生があり、どこかの風景や匂いがあり、美しい光や音がある。読んでいるあいだ今の自分から解放され、遠くまで旅することができる。これはやはり人が長く愛してきた本ならではの魔法だと思うのです。
そんな本たちを組み合わせた本棚が面白くないはずはない。
本棚だけなら図書館にも書店にも、もちろん自分の部屋にだってあるけれど、それがカフェと組み合わされると特別な楽しさが生まれると、いくつかのお店との出会いを通じて私は信じるようになりました。
ブックカフェ、いいな。やりたいな。
しだいにそんな思いが湧いてきたのでした。
…少し長くなりました。
続きは次回にしましょう。
気分を変えて音楽を一曲ご紹介してお開きにしたいと思います。
アイリッシュダンスと音楽によるステージで世界的な成功を収めた「リバーダンス」から、幕間に演奏されるみずみずしい一曲、
Slip into The spring をお聴きください。
春の到来をためらいながら受け入れるような明るい音色とメロディ、浮遊するような不思議なリズムが何とも言えないです。これ何拍子なんでしょうね?
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何拍子かわからない曲が大好きなマスターこと松野がお送りしました。
おつきあいいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。
2022年3月17日 メルマガ配信